日常に潜む「無料」の仕組みに、最近立て続けに唸らされる機会があった。
まずは、今や世界中のインフラとなっている「QRコード」。そういえば何にも知らないなぁと思い少し調べてみる。
これだけ普及しているのだから、開発元のデンソーウェーブは莫大なライセンス料で大儲けしているのだろうと思いきや、実は利用料を「1円も取っていない」という。いわゆる『オープン&クローズ戦略』。
彼らは「誰でも無料で使っていいよ」と世界に開放し、まずはQRコードという市場を完全に独占した。その上で、超高速で読み取る「専用のハードウェア」や「管理システム」という自社だけの強みをガッチリ囲い込み、本業の物販で莫大な利益を回収している。
サッカーで言うと「無料のサッカー場をタダで貸し出し、周辺の出店や専用スパイクで大儲けする」ような、冷徹でクレバーな軍略だ。
そしてこのことでデンソーウェーブを叩く人は皆無だろう。みなQRコードの恩恵は受けているのだからむしろそれくらい当然だと考えていてもおかしくない。
そしてもう一つ、私自身が身を以てその「無料の罠」に最近心地よくハメられたのが、語学学習アプリの「Duolingo」である。
存在そのものは10年くらい前に知っていたけど使いづらいと思ってやめたことがある。現在の職場では英語よりもポルトガル語に触れる機会が多いので、新たな文化に触れる意味でもDuolingoでポルトガル語を始めてみた。
無料版のDuolingoは、あえて「ちょっとうざい」ように設計されている。
・ミスするとライフが減って先に進めない。
・宝箱を開けた後、報酬を得る前の絶妙なタイミングでCMが入る。
これは嫌がらせではなく、有料版の価値を際立たせるための戦略的な罠だ。
130日以上タダで楽しんでいたある日、アプリから「Super」コースの1週間無料体験を勧められた。広告なし、ライフ無限の「天国」を試してしまったのが運の尽き。1週間後、無料版の「地獄」に引き戻された瞬間、CMやライフ制限へのストレスは以前の数倍に膨れ上がっていた。CMは自分向けにチューニングされてないからことごとく気持ち悪いし、なによりライフに制限があるせいで思い切った回答ができなくなった。そう、日本人が失敗しないようにと海外でみんなしゃべらなくなってしまうあの現象だ。
語学なんて失敗してなんぼ、笑われてなんぼ、恥をかく、通じなくて無視される…この繰り返しである、と理解も体験もしているのに、アプリでさえ同じ事をやっているざま。
人間には「一度手に入れた快適な環境を失いたくない」という強烈な心理(損失回避バイアス)がある。そこを見事にハックされ、気づけば私は「年額課金」のボタンをカチッと押していた。してやられたり、である。
一見、太っ腹に見える「無料(FREE)」。しかしその裏には、ユーザーを確実にファンにし、納得した上で財布を開かせるための完璧なモデルがある。
ビジネスのディフェンスとオフェンスの切り替え、本当に奥が深い。とりあえず私は、支払った年額以上のリターンを回収すべく、今日もアプリを開いて失点を恐れずディフェンスラインを上げることにする。


















